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舞台版『電車男』(新宿パークタワーホール)

絵本論講座の話はちょっとお休みして、妹の友人のピンチヒッターで行った舞台版『電車男』の感想を書こうと思います。

原作本・映画・ドラマ・朗読劇(PC無料配信)と“電車男もの”を結構みていますが(そんなに思い入れがある話というわけでもないのですが)、同じ題材なだけに、それぞれの特性を生かした切り口がおもしろいです。

舞台版は堤幸彦氏が演出を手がけています。
以前堤氏が演出した舞台『理由なき反抗』は、舞台という空間や演劇的表現をうまく使えてないな~という印象がありましたが、現代的な題材の今作品は、堤氏の映像的感覚やシニカルな味が生きていたように思います。

舞台上に登場するのは電車男(武田真治)とスレ住人だけ。エルメスは声と回想画面(顔は映らない)でのみ登場します。
スレ住人は“毒男”ばかりで、今までみた“電車男もの”の中では一番濃かったです(妹曰く「暑苦しかった!(笑)」)。

装置(美術:升平香織)は、舞台左右に三段ずつ積み重なった小部屋が配置され、センターに電車男の部屋と大きなスクリーン。このスクリーンに、スレ住人の表情や書き込み、電車男の回想が映し出されます。
スレ住人の毒男達は小部屋に常駐。彼らの様子がリアルタイムで伝わってきます。
『理由なき反抗』の時はいただけなかった映像の挿入も、今回はいいバランスで使われていました。パソコンの書き込み文字やアスキーアートは、この作品には欠かせない効果ですしね。

〈2ちゃんねる〉のスレッドの書き込みを、冷めた目でみているエリートサラリーマン(河原雅彦)が進行役。彼の目線で“電車男”の話が語られます。
最初はスレッドの書き込みを高みの見物とロムっていたエリートサラリーマン、いつしか電車男に感情移入し、ここぞというときに的確なアドバイスを書き込むようになります。
このエリートサラリーマンは、「がんばれ」という言葉が嫌いなのですが、電車男がエルメスへの告白を前に、エルメスと自分のスペックの違いや、変わっていく自分に怖れを感じ、殻に引きこもろうとする山場で、他の住人とともに力強く「がんばれ!」とメッセージを送ります。

毒男たちは引きこもりなどの問題をそれぞれに抱えてます。劇中、〈電車はもう他人じゃない!〉といった発言があるのですが、毒男たちにとって電車男は「変わりたい、このままではいけない」と思う自分の象徴的存在なのです。
電車男の葛藤に感情移入し、電車男の成長を見届けた彼らはラスト、自らも変化することを選びます。
自分で作り上げた“檻”の小部屋を出て、それぞれの人生を歩き出す姿に、すがすがしさを感じました。

セリフはライブ感を出すためか、原作にはないオリジナルなセリフもかなり入っていました(「ビミョーだ。ライブドアの乙部綾子が美人かどうかというくらいビミョーだ」とか笑った~)。

ところで新宿パークタワーホール、本来は演劇をするための場所ではでないようで、客席の前半分は傾斜が全くない床にごく普通の椅子が並べられているだけ。
前に大きな人が座らなくてよかった…。
6,500円とる公演のホールとしてはどうなんだろう、と思いました。



〈キャスト〉
電車男…武田真治、毒男(スレ住人)たち…鈴木一真・モロ師岡・佐伯新・脇知弘・千代将太・河原雅彦、エルメスの声…優香、エルメス母の声…平野文
by yagikuro-3 | 2005-08-13 23:13 | 舞台
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